「タイムズ」が後発ながらカーシェアの頂点に立った理由
「カーシェアリング」という業界で、首位を走るのがパーク24。
「タイムズ」の会社である。
この「タイムズカーシェア」というサービスが業界において高収益を維持しているという。
パーク24、カーシェア業界で突出の高収益の秘密 非常識な戦略で高い稼働率とコスト競争力 | ビジネスジャーナル
今回はこのパーク24がなぜカーシェアで勝てたのかについて、自分の知見を混ぜながら考察してみたいと思う。
パーク24のカーシェアリング事業
そもそもカーシェアリングというサービスを見てみたいと思う。
まずは、パーク24のIR資料を見てみる。
最新のIR資料によると、2014年10月期のカーシェア事業は
売上高103億円(+前年比+60%)、粗利益24.5億円(粗利益率26%)、
営業利益が1,600万円で初の営業黒字に転換するとのこと。
また、会員数が40万人(前年比+48.5%)を突破しており、
非常によく伸びていることが明らかである。
※パーク24は11月~10月が会計年度
なぜここまで調子が良いのか?少しカーシェア事業の経済性を考えてみる。
カーシェア事業の事業特性
カーシェア事業を日本で最初に始めたのが業界2位のオリックス自動車である。
ブランドはオリックスカーシェア。
タイムズはずいぶんと後発で参入しているが、オリックスを既に抜いて業界トップに立っている。
では、カーシェアとはどんな事業か。カーシェア事業を簡単に説明するとこうなる。
会員になった人が、駐車場に行き、そこにある車を運転し、その代金を払う。
ただこれだけなのだが、ここには3つの要素がある。人・場所・車だ。
このうち、最も競争優位性に直結するものは何か?
それは場所だ。
カーシェアは、レンタカーの一業態に思える。
レンタカーであれば、車を安く調達し、稼働率を上げることが重要であるが、
カーシェアは、レンタカーと異なる点がある。
それは、カーシェアの方がより自宅の近くにいることである。
カーシェアは1~2台の車が駐車場においてあり、予約した後勝手に運転するという
モデルである。
一方、レンタカーはたくさんの車を抱え、人が貸す。
どうしても人が集まる駅前などの立地でないとビジネスが成り立たない。
この関係は、レンタカー=スーパー カーシェア = コンビニ の関係である。
(上記記事にセブンイレブンのPOSの例が出ているが、コンビニが例に出ることはおそらく偶然ではない)
コンビニにおいて立地が重要であるのと同様にカーシェアにおいても立地が重要だ。
なぜなら、カーシェアは商圏が狭い(台数が少ないから狭くても成立するともいえる)。
おそらく、記事にあるとおり利用者は駐車場から半径300メートル以内に限られるだろう。
もっと狭いかもしれない。
つまり、利用者からすると、
「近くに駐車場があり、そこからいつでも車に乗れる」ことが重要で、
事業者からすると、
「たくさんカーシェアスポットをおけるくらい会員数を獲得でき、車両の稼働率を確保できること。また、開拓コストを抑えること。」
がこのビジネスにおけるキーポイントだといえる。
さらに、一つのカーシェアスポットに車がなくても近くにある状態は利用者からすると心強い。
いわゆる「密度の経済」が効くビジネスと考えられる。
実際、2年ほど前までは、カーシェアに「縄張り」のようなものがあったと思われる。
たとえば、渋谷恵比寿界隈はカレコが強いとか。
お客さんからすると身近にあるから使ってみようかと思うわけで、
遠くにカーシェアの場所があっても利用しない。
遠くのコンビニにわざわざいかないのと同じ理屈である。
この状態を実現するには2つのポイントがある。
・いかに低コストで駐車場を開拓するか
・駐車場ごとの採算ラインを超えるように車の低コスト調達と顧客開拓を実現するか
である。
このうち最初のポイントを満たしやすかったのがタイムズである。
タイムズは既に持っている駐車場の1つのスポットをカーシェアに変えればよいので、
一から開拓しなければならない他社に比べて圧倒的にコストが安い。
実際は社内でも「駐車場の利益を落とすのか」的な意見があったと想定されるが、
TOPの意思と、空きがちな駐車場で実験を重ね徐々に信頼を獲得することでクリアしていったのではないかと想像する。(このあたりはあくまで想像)
ともかく、わざわざ新しく駐車場を開拓する必要がある、
オリックスカーシェアに比べるとタイムズの大きな強みとなっている。
会員獲得も「駐車場」は大きく効いている。
タイムズの駐車場を通ると、「ここでカーシェアができる」というノボリを見ることができる。
タイムズ駐車場はカーシェアの広告宣伝になっている。
前述のとおり、カーシェアは半径300メートルの人を対象にしている、つまり普段からタイムズ駐車場の前を通る人がターゲットなのだ。
この人たちに対する「刷り込み」に近い宣伝が、「カーシェア=タイムズ」という想起を呼び起こしていると考えられる。
そういった意味では、場所の調達力は顧客獲得コストの低減にも大きな貢献をしているのだ。
車の調達コストについては、そこまで大きな競争優位にはならないのだろう。
ただ、「マツダレンタカー」の買収によって、他社と同等以上の調達力を持ったといえる。
ここまでをまとめるとこうなる
タイムズ オリックス
駐車場・・ 保有済のため、開拓なし 開拓必要
会員獲得・・駐車場を使ったマーケティング 一からマーケティングが必要
車調達・・・弱いがM&Aで強化 元から得意な分野
こう見ると、タイムズはオリックスの強かった部分をキャッチアップしながら、
自社の得意分野をうまく事業に活かすことができたため、
業界トップにたつことができたといえると思う。
見逃せない「営業力」
パーク24で働く人と以前よく飲んでいたのだが、そこで気づくのはパーク24の営業会社っぷりである。
駐車場開拓は地主さんとのリレーション構築が非常に重要で、
いい場所を開拓するために関係づくりができる営業力が駐車場開拓のキーポイントだったりする。
前述した、カーシェアの広告宣伝も実は簡単なことではないはず。
たとえば、景観を壊して、宣伝ばかりされることを嫌がる地主さんもいただろうに、
そこを関係づくりによって突破できるのはやはり営業力であり、
その方向に営業を向かせる経営戦略の明瞭さも忘れてはいけないポイントなのだと思う。
カーシェアの将来
では、カーシェアの将来を考えてみる。
今後どこまで開拓余地があるかだが、カーシェアというビジネスはある一定のところまでは伸びるが全国で活用されるには至らないものだと思う。
なぜなら、車社会ではカーシェアは活用されない・・ものだと思う。残念ながら。
また、東京圏では結構開拓されつくされているように思える。
顧客開拓も、より法人など別のルートが必要になると思われる。
今までの勝ちパターン以外でのやり方が必要になってくる時期だと思われるため、
今後少し厳しくなるのではないかと(勝手に)予想している。
しかし、いずれにせよ、営業黒字までもっていったパークの強さは変わらない。
今後も遠目で見ていたいと思う。