大統領選挙がまもなく!なフィリピンを分析してみる。
フィリピンでは大統領選挙が5月9日におこなわれる。
(Philippine presidential election 2016)
最近、街はかなり選挙モードになってきた。
たとえば、セブンイレブンでドリンクを入れられるカップ(セブンカフェみたいなもの)に大統領候補の顔がプリントされていたり・・
フィリピンの選挙の特徴として、5年に1回大統領だけでなく、副大統領・上下院議員の一部、市長・市議会議員などほぼ全ての政治家が同時に選挙を行うという仕組みになっている。
日本の選挙のように投票率が低くなることは考えにくいが、どの候補がどこの選挙に立候補しているのかわからなくならないのか?すごく不思議・・
大統領候補のポー氏のポスターが多いが、しれっと違う人が入ってる
さて、そんな大統領選挙間近な今のフィリピンを分析してみます。
使うのはグローバルパースペクティブ的に、「カントリーアナリシス」と「ACL」。
【カントリーアナリシスフレームワーク】
[Performance]
GDP:3,011億ドル 2015年のGDP成長率は5.8%。
現在の大統領になってからの成長率が年平均で6%以上と、かなり高い成長率を維持できている。
GDPの中身は7割が個人消費によって支えられており、投資が少ない。また、貯蓄も少ない。要は稼いですぐ使っちゃっているということ。
1人あたりGDP: 約3,000ドル。マレーシアよりも少なく、ベトナムよりも高い。
失業率:7%前後
ASEANの諸外国と比べても失業率が高いのもフィリピンの特徴。
経常収支: この国の経常収支は黒字で推移している。
牽引しているのは2点。
BPO産業とOFW(オーバーシーズフィリピーノワーカー)と呼ばれる出稼ぎ労働者。
OFWの送金額は見逃せず、名目GDPのほぼ1割にあたる額で、OFWの人数も1,000万人を超え、国民の1割が海外で稼いでいるということになる。
(なお、海外にいる日本人は国民の1%だったはず)
貧富の差 ジニ係数 40% = 0.4を超えるレベル
この数字からわかるとおり、貧富の差が大きいのがこの国の特徴。
とくに中間層と呼ばれる人の数が少なく、貧困層と富裕層の差が大きい。
第2次産業の割合がASEANの諸外国と比べ低いのも特徴。
第2次産業を経ずに第3次産業に移行してしまっている様子がわかる。
[Strategy]
現在の政権の方向性は、
・前提として汚職撲滅路線。汚職撲滅によって政治の安定をもたらす。
・経済的には?? 一応国外から投資を引きこもうとしている様子は見られる。
・安全保障的には中国と対峙する方向性。結果的にアメリカや日本と近くなる。
[Context]
・ASEANでは唯一のキリスト教国家(カトリック)。
・人口が1億人を超え、平均年齢が23歳という非常に若い国。
・英語がかなり通じるなど、文化的にアメリカの影響を強く受けている国である。
しかし、南部にはイスラム圏が存在する。イスラム過激派組織が台頭している状況。
[So What?]
ここ数年大幅な経済成長を遂げているフィリピンだが、ASEANの他の国と比べてその中身は大きく異なる。 他の国と全く異なるのが、経常収支のバランスである。
タイやベトナムは輸出で稼ぐ構造になっている一方、フィリピンはサービス業の輸出で稼いでいる。
フィリピンは貿易では赤字になっているものの、サービス(つまりBPO産業)と国外のOFWからの国際送金によって成り立っている。
こういったサービス業は一般にある程度の教育を受けた人に限られる傾向があり、貧富の差拡大を助長していると考える。
今後も安定的に経済成長をするためには、FDIを引き込み、製造業の誘致が必要ではないかと考えられる。
【ACL】
独立性(Autonomy)
現政権は支持率が高く独立性は比較的高かったと思われるが、もともと独立性は高くないと考える。
人口の大半を占める貧困層と少数の富裕層という構造から、貧困層向けの人気取り的な施策に走る候補がいる(模様)
キャパシティ(Capacity)
国家のキャパシティにおいて問題なのは汚職が蔓延していること。
汚職は上から下まで国のいたるところでおきており、徴税機能・警察機能などにボトルネックが生じている(はず)。
他にも治安が悪い・基礎的な教育サービスといった面からキャパシティは決して高くないと考える。
正当性(Legitimacy)
(一応)民主的な手続きで大統領が選出されており、正当性はある。
しかしながら選挙が正当に行われているかというと疑問が残る。
現在の政権は高い支持率があるものの、新しい大統領にそれが引き継がれるわけではなく、基本的に正当性のレベルは高くないと考えられる。
[So What?]
選挙で選ばれた大統領が政治を行う仕組み。
しかしながら、汚職がこの国最大の問題だと言え、大統領は汚職撲滅が大きな仕事になる。 そのため、クリーンさが政治家候補に求められやすい。
しかし、クリーン=政治から距離があるということで、そういう人がいきなり成果を出すことが難しい。このあたりのジレンマが存在すると思われる。
■フィリピンの問題点は?
1:汚職を撲滅できるか?
現大統領の大きな成果が汚職撲滅で、国民からの支持率も高い状態がずっと続いていた。
しかし、フィリピンは再選禁止のため新しい大統領が誕生することになる。 この新しい大統領が今の方向性を継続できるのかどうかがこの国の次の6年間を大きく左右すると考える。
仮に再び汚職が多い国に戻ってしまった場合、海外からの投資が減り国の経済全体に悪影響が大きいと思われる。
2:第三次産業に偏りすぎ・直接投資(FDI)が少ない
BPO産業や英語が話せる人材が多いということを全面に押し出されることが多いフィリピンであるが、 ITやBPO産業はある程度高学歴な人材が求められるという背景がある。
逆にいうと、教育の機会に恵まれない場合、職につくのが難しいということにつながる。
その点、製造業が強いタイやベトナムとは貧富の差において大差がついてしまう。
日本の観点から、英語人材が多いとかコールセンター業務が多いと言われるフィリピンだが、それが本当にこの国のためになっているのかという点は正直疑問に感じざるを得ない。
本筋から言えば、もっと製造業・特に自動車産業が伸びないといけない。
こうしないといつまでも失業率が下がらず、 格差が固定化する。結局第三次産業を増やしてもダメで製造業をどうするかを国として考えなければいけない。
実際、現政権は一応その方向で、日本の自動車メーカーでは最近三菱がフィリピンでの増産を発表している。
3:インフラ整備
基礎的なインフラ整備にも問題がある。
例えば空港。マニラ空港のキャパシティはすでに限界で遅延が多発している。
(というか、ちゃんと定時に出発できたことがここ最近ない)
それ にも関わらず拡張の具体的な予定は全く無い。
また、道路・通信・鉄道・上下水道・ごみ処理など伸び続ける人口にインフラ整備が全然追いついていない。
とくにマニラの交通渋滞は世界最悪レベルとよく言われるが、よくなる気配は全く無い。
このままではインフラの未熟さが経済成長のボトルネックになる日が間違いなく訪れるだろう。
インフラを整備しように投資の元手がない、インフラ整備をする以上に人口が増えてしまい追いつかないという状態が発生していると考える。
次の大統領にはこのあたりの問題をなんとかしてほしいと思うが・・・難しいかな。
■最後に・・
この国は民主主義の国であり、大統領は直接選挙によって決まる。ただ、この国の大統領選挙の様子を見ている限り、ACLの低さが気になる。
僕個人としてどの候補がどうとか言うつもりはないが、日本以上にポピュリズム的な政治に走りそうで非常に危うい。
正直この段階の国が民主主義を採用し続けるのが正しいのか?開発独裁的なやり方の方がいいのではないか?と思わないでもない。
と思いながら、いつまでも整備されないマニラの道路を今日も使うのでした。
[出展]
三菱UFJリサーチコンサルティング
日経電子版
フィリピンの15年成長率5.8% 中国減速もサービス産業発展
フィリピン人の出稼ぎ 送金額、GDPの1割
三菱自動車プレスリリース